結々で取り扱っているアンティーク着物は、大正〜昭和初期ごろの戦前に誂(あつら)えられて、実際に当時のお嬢様方が着ていたものです。
令和の時代から逆算するとざっと80年〜100年前の古いお着物で、骨董品や古美術品と並び、もう二度と現代では作ることが出来ない貴重な宝物です。このアンティーク着物の世界はとても奥深く、日本人としてぜひこの歴史や文化の背景も知ってもらいたいと思い、このページを綴っています。私の溢れるアンティーク着物愛とともにお届けいたします。どうぞお時間のあるときにごゆっくりご覧ください。
当時のこどもと七五三
7歳までは神のうち
当時の親御さんが愛する子供のことを想い、その成長を願い、七五三詣りでは特別な思いで着物を誂えていたのだと思います。今のように予防接種や医学の進歩もまだまだで、ひとたび疫病などにかかれば命に関わる一大事だった時代。「7歳までは神のうち」かつての日本には、こんな悲しい言葉があったそうです。「7歳まではいつ亡くなってもおかしくない」という意味です。
だからこそ、七五三を迎えられる喜びと感謝を神様に伝え、家族皆で祝っていたのだと思います。そのような愛と祈りに溢れた結々のアンティーク着物たち。それぞれの着物にはたくさんのストーリーが詰まっていて、どれもずっと大切にしたい、私にとって1冊1冊の物語のような存在です。
時代背景と着物のデザイン
大正ロマンのはじまり
明治維新以降、文明開化が起こり、西洋文化が一気に日本に輸入されるようになり、ヨーロッパで当時流行していた「アールヌーボー」や「アール・デコ」の影響を大きく受けていきます。着物にも西洋のお花柄や、大胆な構図、個性的な柄行き、カラフルな染料を使った華やかなものがたくさん作られて、一般市民も時代とともにお洒落を楽しむようになりました。
これがいわゆる「大正ロマン」のはじまりです。その後、昭和初期ごろまではまだまだ着物が女性の普段着でしたので、たくさんの着物のデザインが生まれていきました。結々の着物はこの頃に作られた色鮮やかで様々な美しいデザインのもので、見ているだけでまるで美術館にいるような気分になります。
アンティーク着物の流通
一期一会の仕入れ
通常の呉服屋やレンタル業であれば着物の仕入れ方法はいたってシンプルで、着物問屋から希望する色や柄のものを購入したり、新たに作ってもらえば済みます。ですが、このアンティーク着物の仕入れとなると、多方面から探し回らなくてはいけません。
決まった仕入れ先はなく、ある時は質流れのものを、ある時は古物市場の競り、ある時はネットオークション、そしてある時は神社で開かれる骨董品市などなど。いつどこで状態もよく素敵なデザインの着物に出逢えるか分からないので、日常的に素敵で状態の良いアンティーク着物を探求する日々を送っています。
そもそも現代に残っているアンティーク着物というのは、100年近くもの間、どこかのお屋敷で大切に保管されていたり、代々受け継がれてきたり、そして世界大戦などで戦火に焼かれることもなく、生きながらえた本当に本当に貴重な着物ということなんです。
Ichigo Ichie
物理的にアンティーク着物がこれ以上増えることはなく、昨今のアンティーク着物の流行や海外の着物コレクターなどの影響もあり、かなり仕入れも難しい状況です。巡り巡って一期一会で仕入れたこの貴重な着物たちを、ぜひ現代の可愛いこどもたちに着てもらい親子で愛でてほしいと思っています。
着物の状態と和裁士のしごと
蘇る着物たち
やっとの思いで探し当てた心ときめくアンティーク着物も、よく見るとシミや穴あきなどの傷みがあったりして、購入を断念することは日常茶飯事です。絹糸でできた繊細な着物は、長い間の保管状態によって、どうしても傷んでしまうのです。
家屋や家具などと同じで、人の手で手入れをしてあげないと朽ちてしまいます。アンティーク着物のシミは着物専門のクリーニング業者さんでも、元々の着物の生地自体がもろく弱っているため、お手入れが出来ないことがほとんどです。
ようやく見つけた状態が良いものでも、糸がほつれていたり、生地が擦れて薄くなっていたり、裏地のシミがひどかったり。これらを、和裁士がひとつひとつ診断をして、丁寧に修復していきます。
時間はかかりますが、こうしてまた現代に蘇る着物の姿を見るのが何より嬉しく、この先ももう少し子供たちの成長を見守る役目を果たしてもらえたらと、そんな気持ちで取り組んでいます。
着物とサステナビリティ
究極の循環型ファッション
最後に、アンティーク着物のすばらしさをもう一つ伝えさせてください。私は古来からの日本文化自体が大好きです。「もったいない」という言葉も好きです。
着物というのは体に合わせて曲線で裁断する洋服と違い、長方形の反物から作られており、着物を構成するパーツはほぼ全て直線裁断でひとつひとつが長方形をしています。ですので裁断した時に出る無駄なハギレは少なく、そして全てある程度の大きさのあるパーツにして手縫いで縫うので、着物を解けば布に戻り、また他のものに縫い直し再生して使うことができます。
また着物が汚れたり、次の代へ譲るときには「洗い張り」と言って、糸を全て解き、反物の状態にして洗い、そしてまた寸法を直したりして再び縫い上げます。もしくは染め直したりもします。こうして何代にも渡って着られていくんです。
何度も再生利用し転用して、使い古したところで最後は雑巾や赤ちゃん用のおしめにします。さらにそこで終わりではなく、その先はかまどの火種として燃やし、そこから出た灰を染料の材料に使ったり、肥料にして土へ返すことができます。これぞ究極の循環です。
古来より、日本は古着を楽しんで着たり再生させたり、とてもエシカルでサステナブルな暮らしを無理なくしていたんです。
そんなすばらしい日本の着物文化やアンティーク着物の良さを知っていただいた皆さまに、ぜひ結々の商品を手にとっていただき、そして晴れの日にお召しいただければ嬉しく思います。